■アングロサクソンモデルの黄昏──「対米従属」日本が打つべき次の一手は
Newsweek(ニューズウィーク)河東哲夫
2019年8月15日
https://www.newsweekjapan.jp/amp/kawato/2019/08/post-37.php?page=1
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岡崎久彦という外交官兼戦略家がいて、この人は「日本はアングロサクソンについていけば間違いない」ということを口癖にしていた。
自分も大筋はその通りだと思っている。
世界の安定と繁栄を支える力と意思を持ち、他国の主権を踏みにじらず、かつ国内は民主主義で回っている国と親密にすることは良いに決まっている。
イギリスもアメリカも権力・利得の亡者たちが作り出す「ウラ」の面は多々持っているとしても、である。
ところが現在、英米とも民主政治はポピュリスト政治家に乗っ取られ、経済も強欲な金融資本、そして独占的なITプラットフォーム企業に牛耳られている。
そしてトランプ大統領は、これまでの自分の移民排撃発言が8月3日、4日のテキサス、オハイオでの銃乱射事件を誘発したことは認めず、現場をあえて訪問し、場ちがいの笑顔で被害者家族と写真に収まる始末。
親交のあった実業家ジェフリー・エプスタインが14歳の少女ら未成年を要人の買春に供していた疑いで拘置中に変死したことについても、ビル・クリントン元大統領が関与した可能性を示唆して自分にかかる火の粉を払いのける。
アメリカはまだ世界を支配する力を持っているが、アングロサクソンモデルはそのモラル的な正当性を失っている。
「オープンでアカウンタビリティを持ったアメリカ社会」という麗しい「オモテ」の部分は「ウラ」にすっかり覆われて、エゴを力で通すだけの存在に堕している。
論理が破綻しているのにカネと血ばかり要求
トランプは、なぜかイスラエルとサウジ・アラビアの意向ばかりおもんばかって、イラン核開発についての国際合意を一方的に離脱。
それによってホルムズ海峡の情勢が荒れてくると、「有志連合」結成を呼び掛ける。
ドイツはこれへの参加をきっぱり断ったが、日本は未定。
トランプはその日本に対してホルムズ海峡は自分で守れと言い、ポンペオ国務長官は有志連合に入れと言う。
米海軍は日本の基地を、インド洋やペルシャ湾で活動する足場にもしているのに、ペルシャ湾は自分で守れ、しかも思いやり予算(年間約2000億円)を5倍払え、と言ってくる。
論理が破綻しているのにやたらカネと血ばかり要求するのは、古代デロス同盟の盟主アテネを思わせる。
周辺都市国家の信頼を失ったアテネは、ペロポネソス戦争でスパルタを中心とする同盟に負けてしまうのである。
これから貿易問題、そして思いやり予算をめぐる交渉が本格化すると、日本ではアメリカに対する不満が噴出しやすい状況になる。
これまで平和主義の世論に縛られて、自ら自主防衛力強化の手を縛り、対米従属に甘んじてきた屈辱感と欲求不満は、「親米エリート」の間にも鬱積している。
「アメリカ離れ」という言葉が、いったん転がりだすと止まらなくなる。
しかしそれは、北風のふきすさぶ厳冬下で外套を脱ぎ棄て、身軽になったと喜ぶのと同じばかなことだ。
日本はアメリカに対して思いやり予算を増額するのと引き換えに核抑止力、F-35など先端兵器の技術情報開示をきちんと確保しつつ、同時に自前の防衛力を強化したい。
今年の巨人軍ではないが、手持ちの札のもっとうまい使い方を考えるのだ。
地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」にロシアが反対するのを逆手に取って、米ロ中・北朝鮮間の核軍縮交渉を呼びかける、というようなやり方だってあるのだ。
経済(特に先端技術と通貨)と軍事力でダントツの力を維持するアングロサクソンの時代はまだ終わるまい。
しかし、ただ「ついていく」時代は終わった。
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■アングロサクソンモデルの黄昏──「対米従属」日本が打つべき次の一手は
Newsweek(ニューズウィーク) 河東哲夫 2019年8月15日
https://www.newsweekjapan.jp/amp/kawato/2019/08/post-37.php?page=1