■岸田首相の“目玉政策”はどこへ…自民党の衆院選公約に「令和版所得倍増」「住居費・教育費支援」記されず
Yahoo!ニュース 2021/10/14 BUSINESS INSIDER JAPAN
https://news.yahoo.co.jp/articles/53d4c6ea7b4f0e5c5a6555219b789dbb603e796d?page=1
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首相就任後の初会見で、自らが目指す政治と選挙への決意を語った岸田氏。
だが、「宰相の椅子」を掴むに至った自民党総裁選で掲げていた政策のうち、首相就任後の初会見、国会での所信表明……と、時が経るにつれて言及しなくなった政策が出てきた。
また、自民党の高市早苗・党政調会長が10月12日に発表した衆院選公約の政策パンフレットにも記入されなかった政策が複数あった。
・消えた「令和版所得倍増」
まず、経済政策として掲げた「令和版所得倍増」だ。
岸田氏は総裁選での政策集のうち、経済項目「新しい日本型資本主義 新自由主義からの転換」の中でこの言葉を記した。
今こそ、成長と分配の好循環による新たな日本型資本主義の構築が必要です。そのため、「新しい日本型資本主義」構想会議(仮称)を設置し、ポストコロナ時代の経済社会ビジョンを策定し、「国民を幸福にする成長戦略」と「令和版所得倍増のための分配施策」を進めます。
そもそも「所得倍増」とは、岸田氏の出身派閥「宏池会」の創設者で池田勇人首相(任1960~1964)が打ち出した経済政策で、戦後の高度経済成長に影響を与えた政策だ。
岸田氏はこれを「令和版」として再び掲げ、先人と自らを重ね合わせるかのようにアピール。
これまでの安倍・菅政権とは一線を画し、「成長」一辺倒ではない政策で中間層の拡大を目指すものだと受け止められた。
岸田氏自身も総裁選立候補後の政策説明会でもこの言葉を使った。
告示後の所見表明の中でも、こう述べていた。
中間層の拡大に向け、分配機能を強化し、所得を引き上げる「令和版所得倍増」を目指してまいります。
ところが、首相就任後の記者会見冒頭発言や国会での所信表明演説の中に、この「令和版所得倍増」の言葉はなかった。
自民党の衆院選公約の政策パンフレットの中にも、この言葉は記されていなかった。
・抜け落ちた「住居費・教育費への支援」
岸田氏は、総裁選の所見表明の中で「令和版所得倍増」をどうやって目指すかについて語っていた。
それが以下の言葉だ。
例えば子育て世代にとって大きな負担になっている住居費、教育費への支援、強化してまいります。民間に賃上げを求める以上、国自身も努力しなければなりません。賃金が公的に決まる看護師、保育士、介護士、こうした方々については公定価格を見直し、収入を思い切って引き上げます。(岸田氏、自民党総裁選での所見表明)
この「住居費・教育費の支援」は、総裁選で掲げた経済政策のうち「分配施策 岸田4本柱」の2つ目に記されたものだ。
子育て世帯の住居費・教育費を支援
・中間層の拡大に向け、分配機能を強化し、所得を引き上げる、「令和版所得倍増」を目指す。
・特に、子育て世帯にとって大きな負担となっている住居費・教育費について、支援を強化。
だがこの住居費・教育費支援策も、首相就任後の記者会見冒頭発言や国会での所信表明演説の中にはなく、党の公約にも盛り込まれなかった。
国会で教育費支援に問われた岸田首相は「高等教育の無償化の中間層への拡充については、実施状況の検証を行い、中間所得層の進学状況等を見極めつつ機会均等の在り方について検討してまいります」(10月12日、参院本会議で公明党・山口代表への答弁)と述べるに留めた。
・「1億円の壁の打破」も……
他にも消えた言葉がある。
金融所得課税(株式の配当や株式の売買時に課される税金)の見直しなど「1億円の壁の打破」だ。
岸田氏は「4本柱」にはなかったが、総裁選を通じて「成長と分配の好循環」を目指す方法の一つとして政策集に記していた。
しかし、これも首相就任後の記者会見冒頭発言にはなかった。
このときは、報道陣からは質疑応答で「1億円の壁」打破に関する考えを問われて、以下のように応じた。
新しい資本主義を議論する際に、成長と分配の好循環を実現する、分配を具体的に行う際には様々な政策が求められます。
その1つとして、いわゆる「1億円の壁」ということを念頭に、金融所得課税も考えてみる必要があるのではないか。
様々な選択肢の1つとしてあげさせていただきました。
当然それだけではなくして、例えば民間企業において、株主配当だけではなくして、従業員に対する給与を引き上げた場合に優遇税制を行うとか、様々な政策、さらにはサプライチェーンにおける大企業と中小企業の成長の果実の分配が適切に行われているのか。
下請けいじめという状況があってはならない。
こういったことについても目を光らせていくなど、様々な政策が求められると考えています。
ご指摘の点も、そのひとつの政策であると思っています。(岸田首相、10月4日記者会見)
だが、その後の所信表明演説では言及されず、10日に出演したフジテレビ「日曜報道 ザ・プライム」では「当面は触ることは考えていない」と語り、軌道修正を図った。12日に発表された党の公約にも記されなかった。
・「所得倍増、なぜ所信表明に入れなかった?」
自民党総裁選からわずか2週間あまり。
こうした岸田氏の“変遷”を野党は厳しく批判した。
10月12日、衆院本会議での代表質問。国民民主党の玉木雄一郎代表は以下のように質した。
岸田総理は自民党総裁選で「令和版所得倍増」を公約として掲げ、ニュースなどでも大きく取り上げられました。総裁選パンフレットの表紙にも掲げられた、文字通り「看板政策」でしたが、先週の所信表明演説には「所得倍増」の言葉がどこにもありませんでした。
なぜ所信には入れなかったのですか。
誰かの反対で入れられなかったのでしょうか。
そもそも総裁選で主張されていた「令和版所得倍増」とは、いくらの所得を、いつまでに倍増させる計画でしょうか。
その具体的な方策も含めてお聞かせください。
(国民民主党・玉木代表、10月12日衆院本会議での代表質問)
これに対し、岸田首相は「私の経済政策の基本的な方向性を申し上げたもの」であり「旗は一切おろしておりません」としながらも、所信表明では言及しなかった理由は答えなかった。
(中略)
・持論の後退は、総裁選の「呪縛」か
上で挙げたもの以外にも、公約集の政策パンフレットには科学技術顧問の設置、党改革の象徴として掲げた役員の任期制限(1期1年・3期まで)などが見あたらなかった。
「健康危機管理庁の設置」は「健康危機管理の強化」となり、省庁新設案は消えた。
一方で、岸田氏の総裁選政策集にはなかった「核融合開発の推進」や「相手領域内での弾道ミサイル等を阻止する能力の保有」を含めた抑止力向上が政策パンフレット記されるなど、党公約には保守派の声が反映された形だ。
安倍元首相らの支援を受けて、岸田氏と総裁の椅子を争った随一の保守派だ。
選挙の公約策定の要である政務調査会には会長代行は総裁選で高市陣営の選対本部長だった古屋圭司氏などが名を連ねる。
結局、岸田首相が本当にやりたい政策は何なのか。
総裁選に勝利しても、党内5位の派閥「宏池会」の領袖では党内派閥の論理や有力者の意向に右往左往せざるをえないのか。
総裁選の決選投票で高市氏を支持した保守派の支持を受けたことも、岸田首相が持論を封印する「呪縛」となっているという見方もある。
安倍・菅政権下では「政高党低」と呼ばれる官邸主導の政治が進んだが、岸田政権となって一転「党高政低」になったかのようだ。
自民党が政権を維持すれば、岸田首相は自らが総裁選で掲げた政策を本当に実行できるのだろうか。
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