■異次元緩和が日本に与えた「二つの深刻な副作用」~元日銀理事が語る「経済の急所」~
毎日新聞 2021年11月19日 山本謙三・元日銀理事、金融経済イニシアティブ代表
https://mainichi.jp/premier/business/articles/20211110/biz/00m/020/001000c
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金融政策の罪と罰(2)
異次元緩和の副作用を巡る議論は、高インフレが起きるかどうかに力点が偏りがちだ。
「8年半やっても物価が上がらないのに、将来の高インフレを心配するのはばかげている」といった議論である。
しかし、副作用は物価だけではない。
土地や株式といった資産価格から、金融システムや実体経済まで広範に及ぶ。
副作用が広範に及ぶのは、考えてみれば当たり前だ。
異次元緩和とは、巨額の資金供給と超低金利を通じて経済に働きかけるものだ。
現在日本銀行は「短期金利マイナス0.1%、長期金利ゼロ%」という政策金利を掲げている。
これだけの超緩和的な金利を長期にわたって続ければ、副作用も当然大きくなる。
以下、私がとくに深刻と考える副作用を二つ指摘する。
一般の国民には目に見えにくい副作用と、目に見えやすい副作用だ。
・第一の副作用「生産性の低下」
まず、目に見えにくい副作用から説明する。
経済の生産性に与える悪影響である。
大量の資金供給と超低金利の継続は、企業の資金繰りを緩和すると同時に、成長性の低い企業の延命にもつながる。
長く続ければ、新陳代謝が遅れ、経済の活性化が妨げられる。
金融緩和は、もともと将来予定している消費や投資を現在に「前借り」してくる政策である。
企業で言えば、投資案件を前倒しして行うといったことだ。
ところが、金融緩和の当初は、高い生産性が見込める投資を前倒しで行ったが、金融緩和が長く続く間に、次第に生産性の低い投資案件が中心になった。
「前借り」の効果が限界に近づいたのだ。
2010年代の後半に日本の生産性低下が加速した主な理由の一つは、長く続けてきた異次元金融緩和ではないか。
異次元緩和が生産性を低下させるリスクは財政面にも波及している。
日銀による国債の大量購入は、いつでも資金調達できる安心感を政府にもたらし、財政規律を弛緩(しかん)させかねない。
規律が失われれば、非効率な支出に歯止めがかからなくなる。
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異次元緩和が日本に与えた「二つの深刻な副作用」~元日銀理事が語る「経済の急所」~
毎日新聞 2021年11月19日 山本謙三・元日銀理事、金融経済イニシアティブ代表
https://mainichi.jp/premier/business/articles/20211110/biz/00m/020/001000c
■異次元緩和、円安が招く消費悪化リスク
NIKKEI STYLE(日経新聞)2019/5/13 加藤出(東短リサーチ社長チーフエコノミスト)
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO44558330Z00C19A5000000/
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日銀が異次元緩和を打ち出してから2019年4月で7年目に入った。
円相場は異次元緩和開始前の1ドル=95円程度から円安が進み、足元では110円前後で推移している。
日銀は公式には金融政策の目的は物価の安定であって為替相場ではないとの立場だが、大幅な金融緩和が結果的に円相場の下落につながることを意識しながら政策を運営しているといえるだろう。
こうした実質的な円安誘導策が輸出企業を中心に企業収益を支え日本株の上昇要因となった面はあるが、デメリットがあることも指摘しておきたい。
・変化した物価への意識
「消費動向調査」(内閣府)に物価の見通しを尋ねる質問がある。
「上昇する」との回答から「低下する」を差し引いたDIがグラフの赤い線である。
これをみると、16年秋以降上昇傾向が続いている。
同調査で「1年後の物価は上昇する」と回答した世帯に物価上昇率の予想を尋ね、上昇率ごとの回答比率をまとめた表をみてみよう。
16年8月から19年3月にかけて全般に数値が高い方向へシフトしているのが見てとれる。
年率2%のインフレ目標を達成するには人々のインフレ予想の上昇が不可欠と考えている日銀にとっては、これは喜ばしい変化といえる。
このインフレ予想の背景には、日銀の事実上の円安誘導による生活コストの上昇が存在していると考えられる。
国際通貨基金(IMF)が推計する購買力平価のドル円レートは18年が1ドル=98.14円で、19年は97.02円だ。
これは日米で物価がおおよそ同水準になる理論上の為替レートを示すが、近年の実際のレートは大幅な円安で推移してきたといえる。
これによる食品価格などの顕著な上昇の印象が、国民のインフレ予想に影響を及ぼしている。
・消費心理は振るわず
しかしながら前掲グラフの「消費者態度指数」(青い線)と「暮らし向き指数」(黄色い線)はここ最近悪化の一途をたどっている。
日銀はインフレ予想が高まれば国民は消費を拡大するはずと考えてきたが、皮肉なことに消費マインドは全く逆の動きを見せている。
収入の伸びが緩慢で家計の値上げ許容度が高まりにくい中で生活必需品の価格が円安などで上昇すると、それ以外の消費に節約が生じかねない。
これではインフレ率の上昇に弾みはつかないことになる。
変動が大きい生鮮食品とエネルギーを除いた消費者物価総合指数(コアコアCPI)の前年同月比は直近3カ月連続で0.4%にとどまっている。
2%のインフレ目標は相変わらず遠い状態だ。
政府は現時点で19年10月1日に消費税率を8%から10%へ引き上げる方針だ。
財政収支は人口減少と高齢化によって今後の大幅な悪化が予想されることを踏まえると、よほどの経済ショックがない限りは消費税率引き上げは延期せずに実施しておくべきだと筆者は考えている。
前回14年4月の引き上げ時は、その後に消費の悪化が長く続いた。
今回は前回ほどの打撃にはならないだろうという見方が一般的には多い。
主な理由としては(1)増税による家計の負担増をある程度和らげる措置が今回は用意されている、(2)駆け込み需要およびその反動は前回ほど大きくならない見通し、(3)前回は社会保障費負担の増加も重なっていた、などが挙げられている。
ただし、今後注意が必要なのが為替レートの動向だ。
黒田東彦・日銀総裁の異次元緩和策が開始される直前の13年3月を100とした物価水準の変化を示したグラフをみてみよう。
日銀が重視するコアコアCPIは14年4月に消費税率を5%から8%に引き上げた際、103前後に上昇した。
その後は非常に緩やかなペースの上昇が続いている。
・生活必需品の価格が上昇
一方で食料価格はコアコアCPIよりも早いペースで上昇し、14年秋に107近くに達した。
その後も上昇トレンドは続いている。
14年夏まではガソリン価格も顕著な上昇をみせていた。
つまり生活必需品が消費税率引き上げだけでなく、円安や原油価格上昇の影響も受けて急騰していたのである。
賃金の伸びが緩慢な中で生活コストが急上昇すると消費は強い打撃を受けやすい。
日銀の円安誘導は裏目に出たと考えられる。
リフレ派エコノミストは14年後半以降の原油価格下落がなければインフレ目標は達成されていた」とよく主張するが、仮に原油価格が低下していなかったら当時の消費はより悪化していたと推測される。
食料価格は最近、111~112近辺にある。コアコアCPIは105前後だ。
多くの生活者が実感してきたインフレはコアコアCPIが示しているものより高めに推移してきたといえるだろう。
米国の食料価格の推移と比べると、この6年間の日本の食料の値上げがいかに急だったかが実感できるだろう。
19年秋にかけてもし円安が進んだら、それによる生活コストの上昇が日本国民の消費マインドを萎縮させる可能性がある。
そこに10月の消費税率引き上げが重なると消費はさきに述べた一般的な想定よりも悪くなるリスクがある。
逆に円高方向に進んだら、株価の下落による逆資産効果で富裕層の消費は沈滞し得るものの、他方で大多数の消費者は生活コスト低下の恩恵を受ける可能性がある。
・加藤出
1965年生まれ。88年横浜国立大学経済学部卒、同年4月東京短資入社。短期市場のブローカーとエコノミストを兼務後、2002年2月に東短リサーチ取締役、13年2月より現職。マーケットの現場の視点から日銀、FRB、ECB、中国人民銀行などの金融政策を分析する。著書に「日銀、『出口』なし!」(朝日新聞出版、14年)など。
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異次元緩和、円安が招く消費悪化リスク
NIKKEI STYLE(日経新聞)2019/5/13 加藤出(東短リサーチ社長チーフエコノミスト)
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO44558330Z00C19A5000000/
■世界中が物価高を抑えるために利上げを決行する中、日銀だけがなぜ緩和政策を維持?
テレ東BIZ(2022年6月18日)YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=_YOxJpATBi4
■新興国、相次ぎ利上げ インフレ深刻化、資金流出防止
共同通信 2022/6/3
https://nordot.app/905386746518093824
■ソロス氏のヘッジファンド、円安で10億ドルの利益
https://www.nikkei.com/article/DGXNASGN1500J_V10C13A2000000
■日銀金融緩和で刷られた円の行き先が日本企業でも日本国民でもないカラクリ
(Dr.苫米地 2016年9月15日)TOKYO MXバラいろダンディ
https://www.youtube.com/watch?v=tvzNqO6qsGI