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■コロナ危機が暴いた日本の没落<日本総合研究所会長・寺島実郎氏> infoseekニュース 2021年7月3日 日刊SPA!

 


■コロナ危機が暴いた日本の没落<日本総合研究所会長・寺島実郎氏>

infoseekニュース 2021年7月3日 日刊SPA!

https://news.infoseek.co.jp/article/spa_20210703_01763990/


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・進行する「日本の埋没」

 

―― コロナ禍が始まってから1年半が経ちます。現在の状況をどう見ていますか。

 

寺島実郎氏(以下、寺島) 今年5月末で、日本国内で初めて感染者を確認した昨年1月から500日が経ちました。

私たちはここで「コロナ500日」を総括する必要があります。

 

重要なことは、問題はコロナそのものにあるのではなく、コロナがあぶり出した日本の構造的な課題だということです。

結論を先に言えば、今の日本には物事の本質や全体像を体系的・構造的に捉える「全体知」や課題解決のための「総合エンジニアリング力」が決定的に欠落している現実が暴かれたのです。

 

まず政府にはこの500日の政策を総括して国民に語る責任があります。

しかし、政府はそういう政策科学的な説明や総括を一切することなく、ただ緊急事態宣言の延長の可否を判断することだけが政策決定であるかのような錯覚に陥っている。

 

このような迷走そのものが、日本に大変な閉塞状況をもたらしているのです。

象徴的なのは、500日を経て、現段階で日本は国産ワクチンの開発ができていないという事実です。

 

関係者からは、これほど早くmRNAワクチンが登場するなどということは想定外だった、日本では過去にワクチンの副反応問題で厚労省と製薬会社の責任が厳しく追及された経緯から新規開発に及び腰だったというような理由が挙げられていますが、現実には海外からワクチンを購入することに腐心するしかない状況になっています。

 

 

・「やがて日本は間違う」ある臨床医の言葉

 

ここで思い出すのは、昨年お亡くなりになりましたが、ある臨床研究の最前線にいた医師が私によく話していたことです。

 

「やがてこの国は間違う。再生医療にだけ傾斜している。確かに基礎研究は重要だが、最も重要なのは生身の人間に向き合う臨床研究だ」と。

基礎研究の理論は臨床研究で人体にどう作用するかという検証を経て、初めて実用化されますが、基礎研究と臨床試験の間には「死の谷」(デスバレー)が横たわっていると言われます。

 

それほど基礎研究を臨床研究に応用するのは難しいということです。

日本の医療研究は基礎研究ではそれなりの成果をあげられていますが、デスバレーを超えて臨床研究で成果をあげる総合エンジニアリング力が欠けている、ということなのです。

 

その結果、ワクチンをどう入手するか、ワクチンの打ち手をどう確保するかという議論に埋没しているのが、現下の日本の状況なのです。

 

 

・ワクチン以外でも欧米に大きく劣後する日本

 

―― それ以外のコロナ対策も成功していません。

 

寺島 昨年5月から1年間でコロナ患者は5倍に増えた一方、コロナ病床は2倍にしか増えていません。

 

当初、日本は一人当たりの病床数が世界一と誇っていましたが、一般病床とコロナ病床は違います。

今年1月下旬の時点でコロナ病床は欧米の10分の1以下にとどまっていることが判明しました。

 

その結果、政府は昨年から現在に至るまで感染拡大・病床逼迫・緊急事態宣言というルーティーンに陥っています。

コロナ病床が不足するから緊急事態宣言を出すという説明は、「コロナのトンネル」に入った昨年時点なら通用したかもしれませんが、500日経った今では本来通用しません。

 

なぜこの間に、コロナに対応する病床を増やしたり、専門病院を作ることができなかったのか。

1年以上、何をしていたのかということです。

 

また、政府は昨年度に第1次補正から第3次補正まで、総額76・6兆円の補正予算を組み、「1人10万円」の特別定額給付金をはじめとする総額55・9兆円の経済対策を行いました。

それに対して、医療対策は9.2兆円であり、予算全体の1割程度にすぎません。

 

しかし、その経済対策が果たして効果的だったのか、これはしっかり検証しなくてはなりません。

たとえば、特別定額給付金の効果により、昨年の勤労者世帯のひと月当たりの可処分所得は47.7万円(2019年)から49.9万円に増加しました(ただし、給付金を除いて試算すると47.1万円となり、19年から0.6万円減少)。

 

それに対して、昨年の全世帯家計消費支出は29.3万円(2019年)から27.8万円に減少しています。

つまり、給付金によって使えるお金は増えたが、実際に使われたお金は減ったということです。

 

消費刺激という政策的な効果については、ほとんどなかったと言えます。

生活保障政策ならば、全国民に一律10万円を給付するより、年収二百万円以下の低所得者層に重点的に現金を給付した方が効果はあったでしょう。

 

その分浮いた予算を特効薬・ワクチン開発を中心とする医療対策に回していれば、現在の状況も変わっていたはずです。

政府がこうした政策科学を重視しないという事実の中に、日本の政治的貧困が滲み出ているように思えます。

 

 

・日本の産業を弱体化させたアベノミクス

 

―― 日本は先進国から転落したと言っても過言ではありません。

 

寺島 ここで指摘しておきたいのは、日本はこの10年の間にコロナ禍と東日本大震災という二つの災禍に見舞われたという視点です。

 

この二つの危機を冷静に総括する必要がある。

東日本大震災から10年が経ちますが、この間に政府は復興庁を創設し、2019年度までに37兆円の復興予算を投入しました。

 

その結果、被災地はどうなったか。

まず人口減です。

 

東北6県の人口減は震災前から進んでいましたが、震災がその流れを加速させ、2019年時点で、岩手、宮城、福島の被災3県では人口が32.9万人(6.1%)も減っています(2010年比)。

厚労省の予測によれば、2015年から2045年の30年で、東北6県の人口は30%以上減るとされています。

 

次に産業構造の歪みです。

被災3県の県内総生産について2017年度時点で、1次産業は33.9%減少した一方、2次産業は29%、3次産業は6.2%増加しています(2010年度比)。

 

原発事故の影響で1次産業が打ちのめされた一方、復興予算の投入によって2次産業の建設土木関連が急拡大を遂げ、その恩恵にあずかった3次産業も潤ったという構図です。

しかし、現実として復興予算が投下されなくなるにつれ、2次産業、3次産業もシュリンクし始めています。

 

つまり、37兆円の復興予算が土木建設業を中心に投入され、ハード優先の復興が進められた結果、被災地の産業構造が歪められ、人間の顔の見えない地域に変質したということです。

そのため、県別・市町村別の復旧復興計画はがれき処理、高台移転、防潮堤建設はそれぞれ何%進んだと、数字上は復旧復興が進んだことになっていますが、人口は減っている。

 

ハコモノだけは作ったが、人間の生活は戻ってきていないのです。

それは、被災3県を含む東北6県の全体を見渡した上で、この地域にどういう産業を興し、いかなる生活の基盤を築き上げるのかという総合的な構想、グランドデザインが描かれていないからです。

 

その結果、本当の意味での創造的復興は実現できていないというのが、東日本大震災から10年後の現実です。

 

 

―― 総合的構想力の欠如により、日本は二つの危機を克服できていない。


寺島 その間に、アベノミクスなるものがあったわけです。

 

私は以前から日本の危機的状況について警鐘を鳴らしてきたのですが、「株価が高いからいいではないか」という楽観視が先行して、危機感を共有する人は少なかった。

株高円安というアベノミクスの上辺だけの効果で、「日本もそこそこ上手くいっている」という幻想にまどろむ経済人が多かったのです。

 

しかし、すでにアベノミクス公的資金、すなわち日銀マネーとGPIFの年金資金をダイレクトに株式市場に突っ込み、異次元の金融緩和を進めるだけの人為的な株高円安誘導政策にすぎなかったことは一目瞭然です。

その結果、我々は今まさにコロナ危機によって「経世済民」という意味での実体経済の虚弱化が顕在化し、それによって著しく弱体化した日本産業の凋落が白日の下に晒されるプロセスを目撃しているのです。

 

 

・日本の基幹産業はメルトダウンした

 

―― コロナ禍で日本唯一の優位性だった経済力も打撃をうけています。

 


寺島 いま国際社会の中では「日本の埋没」という認識がコンセンサスになりつつあります。

 

たとえば、世界全体のGDPに占める日本のGDPの割合はピーク時の17.9%(1994年)から既に6%(2020年)まで縮小しています。

わずか四半世紀のうちに世界経済における日本経済の存在感は3分の1に圧縮されてしまったのです。

 

私は様々な企業の経営者と議論してきていますが、コロナ危機を機に彼らが心の中に押しとどめていたトラウマがはっきりと浮かび上がってきたと感じます。

最大のトラウマは、MRJ(三菱リージョナルジェット、現MSJ)の挫折です。

 

これは三菱重工を中心とする中型ジェット旅客機の国産化計画であり、「自動車産業一本足打法」と言われる産業構造から脱却して新たな宇宙航空産業を切り開くという、日本産業界の希望とビジョンを託した一大プロジェクトだったのですが、巨額の開発費をかけた末に、昨年凍結に追い込まれました。

 

表向きはコロナ禍によって航空機需要が見込めなくなったと説明されていますが、現実には総合エンジニアリング力不足から頓挫したのが実態です。

 

これまで日本は部品や部材を開発製造する要素技術は世界一流、ボーイングのパーツの半分以上は日本が作っているなどと胸を張っていましたが、実際に自分たちでやってみたら、個々のパーツを作ることと完成体を作ることでは次元が違うという事実に直面したわけです。

 

自前でジェット機を完成させるには、個々の要素技術だけではなく、総合エンジニアリング力が必要だったのです。

 

その力が不足していたために、たとえば当初は最先端のパーツを投入することで燃料費を2割削減するという大きなビジョンを掲げて動き出したプロジェクトが、そのうちアメリカの型式認証をクリアするためにはボーイングで認証済の部材を使ったほうが速いという話となり、計画が徐々に矮小なものに収斂していったというのが実際のところなのです。

 

 

アベノミクスという幻想に寄りかかり、衰退した日本の産業

 

―― 他の日本企業も惨憺たる状況です。

 

寺島 戦後日本は鉄鋼・エレクトロニクス・自動車を基幹産業とする工業生産力モデルの優等生として成功を収めてきたという自負心がありましたが、それらの基幹産業の実態は深刻です。

 

鉄鋼分野では、すでに日本製鉄が国内高炉4基の閉鎖に着手しています。

それにより、数年前まで1.1億トンを維持していた日本の粗鋼生産量は、今年中に8000万トンを割り込むことになります。

 

エレクトロニクス分野でも、東芝原子力事業に躓いたことから「ファンド」と称するマネーゲーマーに振り回され、株主利益を最優先する超短期的経営を強いられた結果、医療機器から半導体まで有望な分野は次々と売却させられています。

 

「技術の東芝」は、まるで生体解剖のようにバラバラにされてしまい、もはや見る影もないという状態まで追い込まれてしまいました。

自動車分野ではトヨタがしっかりと持ちこたえているように見えますが、国際的なルール形成に後れをとったため、後手に回ってジリジリと追い詰められています。

 

国際社会ではいつの間にか「Co2ゼロ」が既定路線にされた結果、突如として欧米ではガソリン車・ハイブリット車禁止の方向が決まり、今後は電気自動車(EV)でなければならないというルールが形成されつつあります。

それにより、世界で1000万台近くの自動車を生産しているトヨタ時価総額よりも、36万台程度しか生産していないテスラの時価総額のほうが高いなどというパラドックスが生まれています。

 

環境問題を理由とする自動車業界のルール変更は、見方によれば「トヨタ潰し」とも言えるような状況になっているのです。

日本の技術力は世界最高峰だ、円高株安のアベノミクス万歳などと安易に寄りかかっているうちに、日本の基幹産業はメルトダウンして国際競争力を失いつつあるのです。

 

ワクチン開発の遅れ、MRJの挫折、基幹産業のメルトダウン、さらに言えば東日本大震災からの復興の歪み、アベノミクスへの耽溺、コロナ禍での迷走、これらの問題の根源はいずれも総合エンジニアリング力、構想力の欠如なのです。

これこそが東日本大震災から10年、コロナ500日の今、日本人が肝に銘じるべき教訓です。

 

 

・「ジャパノロジスト」が復権したバイデン政権

 

―― 経済的影響力の低下は、政治的・外交的影響力の低下に直結します。

 

寺島 外交構想力の欠如も深刻です。先日、日米首脳会談が行われましたが、ここで明らかになったのは、トランプ政権時代に排除されていた「ジャパノロジストの復権」です。

 

リチャード・アーミテージマイケル・グリーンカート・キャンベルといった日米同盟をワシントンでのビジネスにしている、いわゆる「ジャパノロジスト」が、バイデン政権になって日米関係の中枢に舞い戻ったのです。知日派親日派は違います。

 

首脳会談では菅総理とバイデン大統領はファーストネームで呼び合い、日米安保条約第5条を尖閣諸島に適用するとされたことで、日本では成功であるかのように報道されました。

しかし、こうしたバイデン政権の対応は、明らかにジャパノロジストから「こうすれば日本人は喜ぶ」と入れ知恵されたようなものです。

 

たとえば、アメリカは米中国交正常化以来、尖閣諸島に対する日本の施政権は認めるが、領有権については態度を示さないという曖昧戦略を続けています。

だからアメリカから「日米安保第5条を尖閣諸島へ適用する」と言われたならば、「では、アメリカは尖閣諸島に対する日本の領有権を認めるのか」と即座に聞き返さなければならない。

 

「第5条尖閣適用」の一言を有難がり、本領安堵された御家人のように安心して帰ってくるようでは話になりません。

ファーストネームも第5条尖閣適用も、いわば日米同盟の固定化を自らの利害とするジャパノロジストに仕掛けられたものにすぎません。

 

ところが、日本人は相変わらず彼らの手のひらで踊らされ、喜ぶような自虐の構造にはまり込んでいるとも言えます。

日米首脳会談では台湾問題にも言及しましたが、仮に中国が台湾に侵攻した場合、米軍が動くとなれば、台湾に米軍基地は一つもなく、沖縄から出撃することになり、日本は否応なく米中戦争に巻き込まれる危険性をはらんでいます。

 

米中対立でどちらにつくのかという議論が先行していますが、これでは日本の21世紀は開かれません。


日本の貿易相手国のシェアは、2000年にはアメリカ25%、中国10%でしたが、2020年にはアメリカ14・7%、中国23・9%と逆転し、2030年にはアメリカ12%、中国26%とダブルスコアになると予想されています。

 

日本は中国との関係によって経済を成り立たせるという実態の中で、日米同盟を強化して中国の脅威に対抗するという歪んだ戦略を進めることで、自らパラドックスの中に突っ込んでいるのです。

こうした状態から脱却し、米中対立という枠組みを超えて、大国の力学に揉み潰されない主体性を取り戻さなければなりません。

 

 


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■コロナ危機が暴いた日本の没落<日本総合研究所会長・寺島実郎氏>
infoseekニュース 2021年7月3日 日刊SPA!
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