■外交は、アメリカの「お友達」を選ぶのか「仲間」を目指すのか
Amebaニュース(2020年11月12日)SPA!(倉山満)
https://news.ameba.jp/entry/20201112-243/
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・菅外交は、アメリカの「お友達」を選ぶのか、「仲間」を目指すのか
安倍晋三前首相が居なくなって、国会論戦も落ち着いてきた。
相変わらず「いつもの野党」は学術会議で責め立てるが、かつての「反安倍」VS.「反・反安倍」のような感情的な対立は影を潜めた感がある。
安倍内閣の頃は、野党が一言でも「モリカケ」を聞こうものなら、テレビはそこだけを執拗に流していた。
野党幹部も、政権のスキャンダルを徹底攻撃する姿勢を良しとしたし、安倍応援団もそうした野党に宗教戦争の如く反撃するのが己の使命であると信じ込んでいるかのようだった。不幸な状況だった。
ところが今は、余裕がある。
菅義偉首相が「全集中の呼吸で」などと大ヒット漫画『鬼滅の刃』のセリフを引用すると話題となる。
本来、国会とは、与野党ともに国の為に穏やかに話しあう場である。
ようやく、「アンチ」と「アンチへのアンチ」以外の議論が介在する余地が出てきた。
野党でも国民民主党は学術会議に一言も触れず、与党に対して提言を行う形で国民に選択肢を示している。
かなり健全ではないか。
さて、識者の間では想定されていた事態だが、アメリカ大統領選挙が泥仕合と化している。
ドナルド・トランプ政権が存続すれば政策は継続されるが、ジョー・バイデンに交代すれば新たな方策を日本も考えねばならない。
ここで安倍政権の外交を振り返りつつ、菅内閣が何を引き継ぎ、何を改善したいかを考えたい。
・トランプは中国に対決姿勢
まず、トランプは台頭する中国に対決姿勢を示してきた。
これに関しトランプの暴走との誤解があるが、違う。
トランプは議会で超党派を組んで中国と対決している。
仮にバイデン政権になっても、温度差はあろうが、方向性は変わらないだろう。
そもそも、アメリカ民主党といえども、強すぎる中国は好まない。
ただ全面的な対決姿勢かというと、トランプですら違った。
かつて、ロナルド・レーガンはソ連を潰すと宣言、自らの任期8年では果たせなかったが、後任のジョージ・ブッシュの時代に実現した。
レーガンとブッシュは、景気回復を成し遂げた後、軍拡競争を挑み、国際協調体制による包囲網を構築、あらゆるインテリジェンスを駆使して、ソ連崩壊に導いた。
では、今の中国が滅び際のソ連のような状態かと言えば、違う。
習近平の共産党支配は強固であるし、経済力はアメリカに追い付け追い越せの世界第二位の実力、外交的にはむしろ攻勢をかけているほどだ。
このような中国を潰す力は、今のアメリカには無い。
だからこそトランプは、中国に圧力をかけて、政治的経済的取引を有利に持ち込もうとしていたのだ。
バイデンも、基本路線は変わらない。
中国の方は、仲間がいないトランプよりも、国際協調による対中包囲網を実現しかねないバイデンこそ警戒しているとか。
もっとも中国は、それを黙って見ているほどお人よしではないが。
・首輪のついた「弱い日本」から「自立した強い日本」への道は、軍事力を裏付ける経済力の回復だ
さて、こうした流れの中で安倍外交はなにをやってきたか。
孤立するトランプの友達でいた。
ただ、それだけだ。
この場合の「友達」とは「仲良し」であって「仲間」ではない。
「仲間」とは何か。
いざという時に、一緒に武器を持って戦う存在のことである。
たとえば、イギリスはアメリカの政権が共和党だろうが民主党だろうが、アメリカの戦いには兵を派遣して戦ってきた。
もちろん、時に独自の判断でアメリカについていかない時もあるが、「原則として一緒に戦う仲間」である。
翻って安倍外交はどうだったか。
トランプは、日本に対等の同盟国にならないかと持ち掛けてきた。
その為に自主防衛を容認する発言をした。
ところが安倍首相は早々に拒否した。
軍事抜きの外交を選んだ。
確かに孤立するトランプは日本を無下にすることはなかった。
では、それが日本の国益となっただろうか。
安倍政権は単に、日本がマトモな軍事力を付けることを嫌がる勢力と戦うのを回避しただけではないか。
では、日本がマトモな軍事力を付けることを嫌がる勢力とは誰か。
国内においては財務省である。
財務省は財布の紐を締めるのが仕事である。
国家予算つまり国の支出は、大半が福祉と地方へのバラマキに消えている。
そのバラマキを支える為に増税と緊縮財政に走っている。
そんな中で、防衛費は額が大きくて抵抗力が小さい。
福祉や土木を削ろうものなら族議員から業界団体までが束になって抵抗してくるが、防衛に関心を持つ国民や政治家は少ない。
財務省からしたら、「防衛費を削れなければ、何を削るか」なのである。
今までの歴代アメリカ大統領は、強い日本を本質的に忌避し、首輪をつけた状態に置いておいた。
バイデンが「弱い日本」を首輪につないでおきたいのか、それとも「自立した強い日本」を望むのか。
我が国は、後者こそが日本だけでなくアメリカの国益になるのだと説得すべきであろう。
そして強い日本となるには裏付けが必要だ。
安倍内閣のGDP0.95%の防衛費では合格最低点に達していない。
平時で2%が標準である。
本気で中国を潰すなどと考えるなら、7%も視野に入れねばなるまい。
ただ、精神論だけ言っても裏付けが無ければ意味がない。
では、その防衛費を増額させる財源はどこからひねり出すか。
経済成長以外にありえない。
安倍内閣は8年も政権を独占しながら、景気回復すら達成できなかった。
それどころか2度の消費増税により景気回復を腰折れさせていたところに、コロナ禍である。
今でこそ巨額の給付により国民経済は何とか支えられているが、ではいつまでこれを続けるか。
それとて、今すぐ金融緩和をやめてしまえば、リーマンショック以上の大不況が押し寄せてくるのだ。
・米中対立の中で、我が国の選択肢は二つしかない
コロナ禍を収拾、そして景気回復を成し遂げねば、外交などできはしないのだ。
古い格言に「外交と軍事は車の両輪」とある。
軍事抜きの外交など、発言力は十分の一だ。
もし菅内閣が本気で外交をやるならば、防衛費GDP2%程度の軍事力を持たねば話にならないし、その為にはコロナ禍とデフレ経済を早々に退治しなければ、軍事力の裏付けとなる経済力が回復しない。
米中対立の中で、我が国の選択肢は二つしかない。
一つは翻弄されるだけの存在。
もう一つは自分の力で生きる国となること。
さて、菅義偉首相の選択はどちら?
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■菅外交は、アメリカの「お友達」を選ぶのか「仲間」を目指すのか
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