■新型コロナ解説で「安倍批判は控えてほしい」と某局ディレクターに言われた<上昌弘氏>
ハーバー・ビジネス・オンライン 2020.03.20
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・「安倍政権の批判は控えて欲しい」
・・・上さんは医師・研究者としてテレビに出演し、安倍政権の新型コロナウイルス対策に警鐘を鳴らして来ました。しかし最近、圧力を感じる事が在ったそうですね。
先日、某局のディレクターから「上層部から『安倍政権の批判は控えて欲しい』と言われて居る」と釘を刺されると云う事が有りました。
新型コロナの問題で、メディアの自主規制が働いて居ると感じました。
現在は海外メディアからの取材依頼が増えて居ます。
理由を聞くと「日本には独自の意見を自由に発言する医師や専門家が殆ど居ない。政府から独立して居る専門家を起用したいと思い『誰か該当する人は居ないか』と尋ねると、貴方の名前が上がる事が多かった」と話して呉れました。
「政府から独立して居る」と云うのは、政府とは関わりが無いと云う事です。
確かに政府と関わりの有る専門家は立場上、政府の見解と異なる意見を言い難い。
しかし私にはそう云う柵(しがらみ)が無いので、研究者として正しいと思った事を自由に発言する事が出来ます。
そう云う事情で私に声が掛かったり、掛から無かったりするのだと思います。
安倍政権は、専門家の政権批判を封じ込め様として居る様です。
3月に入ってからは情報番組「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系)が3月4日に放送した内容に付いて、厚労省が番組名を挙げて名指しで批判したものの、その後「訂正したい」と反論を撤回すると云う騒動がありました。
政府が口を出せばメディアは忖度して呉れるかも知れませんが、ウイルスは忖度して呉れません。
今ウイルスに対処する為に必要なのは、自由闊達な議論です。
新型コロナは新しいウイルスであり、それ故ウイルスの正体や対策に付いて様々な観点から議論する必要があります。
そう遣って議論を積み上げて行けば、ヤガテコンセンサスも得られる筈です。
それが締め付けられる様な事は有っては為ら無いと思います。
・・・上さんは自由な立場から政府の問題点を指摘して居ます。先ず政府は水際対策として2月1日に中国湖北省からの入国を制限し、3月8日には中国・韓国からの入国を制限しました。
実は、これ等の措置は水際対策に為って居ないのです。
水際対策は外部感染を防ぐものですが、内部感染が始まって居る状況では余り効果が無いからです。
例えば中国は1月23日に武漢を封鎖しましたが、中国本土の感染拡大を防ぐ効果は殆ど無かった事が明らかに為って居ます。
これはアメリカの医学誌『サイエンス』に掲載されたボストンの大学の研究成果です。
日本政府は2月1日に湖北省からの入国を制限しましたが、この時点で既に国内感染が広がり始めて居たと考えられる為、水際対策の効果は殆ど無かったと思います。
仮に1月下旬の時点で入国制限を行って居ても、大した違いは無かった筈です。
政府は3月5日に中国と韓国からの入国を制限する追加措置を執りましたが、これも医学的には殆ど無意味です。
現在の状況では中国人と韓国人から日本人に感染するリスクよりも、日本人同士で感染するリスクの方が圧倒的に多いからです。
追加措置の効果は誤差の範囲内だと思います。
・政府の対応に医学的根拠は無い
・・・政府の専門家会議は2月24日に「コノ1~2週間が感染拡大のスピードを抑えられるかどうかの瀬戸際だ」と云う見解を発表しました。
根拠が分かりません。
ソモソモ日本では検査体制が不十分なので、感染拡大のスピードが把握出来て居ない。
それだから、ソモソモ「瀬戸際」かどうかも分から無い筈です。
実態を把握しない限り、感染拡大のスピードを抑えると云う様な議論は成り立た無いと思います。
・・・政府は26日にイベント自粛を、27日には全国の小中高校に一斉休校を要請しました。
イベント自粛に、感染拡大を防ぐ効果が有ると云う研究や論文は見た事がありません。
常識的に考えれば感染の機会を減らすかも知れませんが医学的な根拠は無いと思います。
それは、一斉休校も同様です。
確かにインフルエンザの感染が起きた学校を休校にする事には、感染拡大を防ぐ効果が有る事が証明されて居ます。
しかし感染が起きて居ない学校を休校にする事で感染を予防出来るかどうかは別の問題です。
今回、安倍総理は感染の有無に関わらず、全国一律に休校を求めましたが、医学的な根拠は好く分かりません。
一斉休校に根拠が無い為らば、学校再開にも根拠が無い事に為ります。
今後、安倍総理はどう云う理屈で学校を再開する積りなのか。
皆目見当が突きません。
・「研究」を優先した結果、医療現場は大混乱
・・・日本は他国に比べてPCR検査の件数が少ないのも問題です。例えば2月下旬の時点で韓国は約6万7000件検査して居るのに対して、日本はクルーズ船を含めても約6200件に過ぎませんでした。
足ったそれだけの検査では感染状況の実態を把握する事は出来ません。
これ迄明らかに為った感染者は氷山の一角に過ぎ無い。
日本の感染者の数は過小評価されて居るのです。
ソモソモ政府は「重症者を検査・治療する」と云う方針に基づき、検査対象を厳しく限定して来ました。
PCR検査が受けられるのは保健所(帰国者・接触者外来)で必要が認められた重症者だけ。
無症状や軽症の患者は最初から無視すると云う事です。
現に政府は1日約3800件の検査が可能だと説明して居ましたが、実際には1日数百件の検査しか実施して居ませんでした。
政府に感染者の人数を把握する積りが無いのは明らかです。
・・・政府が検査件数を増やさ無いのは、感染者を少なく見せたい・・・からでは無いかと云う疑念も生まれて居ます。何故政府は検査を拡大しないのですか。
私にも分かりませんが、強いて云えば感染研は医療機関では無く研究機関なので、情報と予算を独占して実態把握や患者の治療よりもウイルス研究を優先したいと云う思惑があったのではないかと思います。
何れにせよ、患者の治療に支障が出て居るのは事実です。
実際に検査基準が厳し過ぎて、主治医が必要だと判断しても保健所が検査を拒否すると云う事例もありました。
医師の立場からすると、患者の治療の為にPCR検査の拡大は絶対に必要です。
只、PCR検査の拡大には問題点が指摘されて居ます。
PCR検査を幅広く行った韓国やイタリアでは、新型コロナの患者数が激増して医療現場がパンク、医療体制が崩壊したと報道されて居ます。
PCRを増やす事と、医療現場がパニックに為るのは次元の違う話です。
陽性に為っても治療が不要な人は入院して貰わ無ければ好いのです。
只、それにしても日本の検査件数は少な過ぎです。
重症者しか検査し無いと云う事は、無症状や軽症の感染者は放置すると云う事です。
コレでは感染は拡大する一方です。
PCR検査を全員にする必要はありませんが、担当医と患者が希望するものは第三者が拒否しては為りません。
PCR検査は拡大する必要があります。
政府もヤッとそれを認めたのか、3月8日からはPCR検査が保険適用に為り、それに伴って感染研・保健所以外でも検査を受けられる様に為りました。
韓国・アメリカ・イギリス・ドイツ等ではドライブスルーのPCR検査も導入されて居ます。
他国の知見も活かしながら今後共検査体制の充実を図って行くべきです。
・・・政府は患者の治療を後回しにして来ました。
最大の問題は、政府が1月23日に新型コロナウイルスを、結核等と同じ「指定感染症第2種」に指定した事です。
そうすると、指定感染症の患者は隔離病棟など特殊な設備を持って居る国の指定医療機関に隔離される事に為ります。
第2種に対応出来る指定医療機関は全国に348か所あります。
詰り、第2種に指定した事で、新型コロナの患者は全国に348か所しか無い特殊な医療機関でしか対応出来ず、一般の病院では対応する事が出来無く為ったと云う事です。
その結果、医療現場では大変な混乱が起きて居ます。
既に一般の病院やクリニックでは感染の疑いが有る患者を受診拒否したり、院内感染が発覚して病棟を閉鎖したり診療を休診したりする事態に為って居ます。
しかし本来、新型コロナはインフルエンザの様な病気です。
それが結核等と同じ第2種に指定されてしまったから、新型コロナの感染者が見付かる度に医療現場がストップしてしまうのです。
現場の医師達は「兎に角第2種指定を外して、インフルエンザと同じ様な扱いにして呉れ。
これでは身動きが取れ無い」と悲鳴を挙げて居ます。
「重症者の検査・治療を行う」と云う方針やPCR検査の限定的実施、「指定感染症2種」への指定等は、何れも患者の治療よりもウイルスの研究を優先したものです。
その結果、患者の治療は後回しにされ、医療現場では混乱が起き、患者が困って居るのです。
政府は従来の方針を転換して、治療体制の確立に全力を挙げるべきです。
【上昌広(かみ・まさひろ)】1968年生まれ 特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所理事長 医師 東京大学医学部卒 虎の門病院や国立がんセンター中央病院で臨床研究に従事 2005年東京大学医科学研究所で探索医療ヒューマンネットワークシステムを主宰 2016年から現職 著書に『病院は東京から破綻する』(朝日新聞出版)等
3月11日インタビュー 聞き手・構成 杉原悠人
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新型コロナ解説で「安倍批判は控えてほしい」と某局ディレクターに言われた<上昌弘氏>
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