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■なぜ日本は壊れていったのか…「ロッキード・リクルート事件」の真相 現代ビジネス(講談社)2021.03.23

 

■なぜ日本は壊れていったのか…「ロッキードリクルート事件」の真相

現代ビジネス(講談社)2021.03.23

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/81104


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592ページにも及ぶ超弩級ノンフィクション『ロッキード』(文藝春秋刊)著者・真山仁氏と、リクルート創業者江副浩正の真の姿を描き切った『起業の天才!』(東洋経済新報社刊)著者・大西康之氏の特別対談後編。


田中角栄江副浩正の逮捕・失脚で日本は何を失ったのか?

なぜ「ありえない」ことが次々と起きたのか?

ロッキード事件がなければリクルート事件もなかった……?


語られざる「ロッキードリクルート事件」の真相から、この国のかたちと難題が見えてくる。

 


・検察との仁義なき攻防

 

真山 ロッキード事件は、目白の大豪邸に住み、金権政治でのしあがった総理大臣・田中角栄を追い詰めた特捜検察の執念が実を結んだ事件でもありました。それを世論が後押ししたという背景も見えてきます。

 

大西 リクルート事件も、「未公開株」を政治家に配った「成り上がり」江副浩正への憎悪の世論が特捜部の捜査や裁判を後押ししました。しかし、どちらも裁判で有罪判決がくだされながら(田中は一審、控訴審で有罪、最高裁の審理中死亡により公訴棄却。江副は一審、検察と江副双方控訴せず有罪確定)、冤罪だという見方が根強くあります。

 

真山 ロッキード事件には、ざっくり言えば、大物フィクサー児玉誉士夫が21億円を受領したという「児玉ルート」と全日空が買った大型のジェット旅客機「トライスター」をめぐる「丸紅(まるべに)ルート」があります。児玉ルートで火がついたロッキード事件は、丸紅ルートで角栄に襲い掛かってきました。
1976年7月27日、田中角栄東京地検特捜部に逮捕されます。総理在任中に、総合商社の丸紅を通じてロッキードから同社のトライスターを全日空に導入させる見返りの賄賂として、5億円の現金を受け取ったという容疑でした。検察は受託収賄罪で起訴し、東京地裁は検察の主張を認めて有罪とします。
しかし、この裁判には不可解な点がたくさんあった。
民間企業の機材の選定に総理が口出す権限などありません。たしかに当時の航空会社は、監督官庁運輸省(現・国土交通省)の強力な権限のもとにありましたので、運輸大臣に賄賂を贈って口利きをさせたというのならわからなくもない。ロッキードの裁判では、検察も裁判所もその運輸大臣を総理大臣は指揮監督する権限があったとして角栄を有罪にしましたが、もし総理にそのような職務権限があるとされれば、総理は国政のありとあらゆる業務に対して職務権限があることになる。これは法をあまりに拡大解釈しています。実際に、こうした批判は少数ながら当時からありましたが、角栄バッシングの猛威の中で封殺されていきました。

 

大西 そもそも角栄ロッキードから5億円をもらう理由についても、腑に落ちない点があります。

 

真山 そうなんです。元毎日新聞政治記者西山太吉さんは「5億円なんちゅうのは角栄にとっては、はした金だ」と言っていました。また角栄にほれ込んだ通産官僚の小長啓一さんも「5億円のようなはした金を、外国人からもらうなんてありえない、と田中さんが繰り返していた」と言うのです。
庶民から見れば大金ですが、西山さんが担当していた宏池会(現在の麻生派や岸田派の源流)では財界への電話一本で億単位のカネを集金したという当時の政治背景を考えれば、この程度の献金は当たり前でした。つまり5億円は丸紅からの単なる献金で、ロッキードからの賄賂ではなかったという見方は充分に成立します。
検察の起訴状によれば丸紅からの金銭授受は、英国大使館裏の路上やホテルオークラの駐車場などで白昼堂々と行われています。やましいカネなら料亭でこっそりやるはずなのに。検察が主張したカネを運んだルートも実際に現場検証をしましたが、不可解なことだらけでした。

 

大西 角栄にはロッキードの要請に応じて、トライスターを全日空に導入させて、その見返りに5億円をもらうという動機そのものが見当たらないわけですね。
リクルート事件でも上場を目前としていたリクルートコスモスの未公開株を政治家や経営者に配ったと言っても、株を買ってもらったわけです。未公開株を買った人たちは、上場後に株が上がれば儲かりますが、下がって損をするリスクも負っているわけです。社会的信用力のある政治家や財界人に未公開株を引き受けてもらうということは、経済界の常識でしたし、上場を担当する証券会社では当たり前のように行われてきたこと。しかも江副は政財界の全方位的に配っていて、特定の誰かに便宜を図ってもらおうとする意図があったようには見えません。
当時はバブル経済の真っ盛り。リクルートは川崎の再開発地にビルを建てました。そのときリクルートの交渉相手だった川崎市の副市長が、リクルートコスモスの未公開株を同じリクルートのノンバンクからおカネを融資してもらって買い、上場後すぐに値上がりしたその株を売って売却益一億円を得た。それを報じた朝日新聞のスクープ記事によって、リクルート追及報道に火がついたのですが、この川崎市のケースは、警察も検察も、立件できないとして見送っていたんです。
ところが朝日新聞はこの報道を皮切りに、森喜朗をはじめとして、安倍晋太郎竹下登中曽根康弘らが未公開株を貰ったことを次々と暴いていった。特別な地位にいるだけで、「ぬれ手でアワ」でおカネを手にした政財官の要人たちへの怒りが燎原の火のように広がりました。その世論をフォローの風にして、東京地検は江副を逮捕、取り調べをしますが、そもそも贈収賄の見立てには無理がある。
検察のシナリオに沿った罪の自白をするまで土下座を強要したり、長時間壁に向かって立たせたりする戦前の特高まがいの取り調べや不当な長期に及ぶ勾留は、その後問題視されますが、当時は検察のやりたい放題。
頭に浮かんだのは、つかこうへいさんの小説「熱海殺人事件」です。ショボい事件を大犯罪に仕立てていくために犯人に自白を強要していく物語ですが、主人公の部長刑事は「凶器は浴衣の腰ひもです」と供述する犯人に「そんなショボい凶器で、国民が納得するか」と事件を脚色していく。これはフィクションのなかだけの話だと思っていたら、現実でも同じでした。

 

真山 検事の中にも「未公開株は賄賂ではない」「あれを賄賂認定するのはダメだよ」という人もいるくらい、あの事件の検察の捜査はひどかった。いまの若い検事にはロッキード事件を否定的に捉える人は少なくありません。それでも一定以上の年齢の検事になると、ロッキードは政界中枢にメスを入れた特捜検察の金字塔なのです。ロッキード事件の不可解さを尋ねても、「あの事件は優れたブツ読みがされている」と。証拠(ブツ)が本物かどうかは別にしても入手したブツから積み上げて、ロジックをしっかり詰めているというわけです。
ロッキードの主任検事は今でも特捜検事の神話となっている吉永祐介。そして後にリクルートで主任検事となる宗像紀夫さんも丸紅ルートの公判検事を務めました。突破力のある吉永がロッキード事件の主任検事だったことは、角栄にとって不運なめぐりあわせでした。
ロッキード事件の検察の主張のおかしさを宗像さんに尋ねると、「それは裁判所が決めることだ」と言うのです。検察はブツとロジックを積み上げて罪の可能性を追求するのが任務であって、有罪か無実かを決めるのは裁判所。有罪率が99%に迫る日本で、我々は立件する検察こそが有罪を決定づけているのではないかと思いますが、彼らの理屈はこうなのです。しかし、それは制度としては正しい理屈でもある。

 

大西 そして、その裁判所がまた世論の影響を受ける。

 

真山 そのとおりです。もちろん法に則って判断をされているのですが、証拠のほころび、被告側から違法性を指摘された調書をどのように解釈し、採用するかしないかは、世論の方向性も影響していると思います。たとえばロッキード事件は有罪となった角栄に世論が背を向けていた。一方で、ロッキード事件同様に検察側の証拠に問題の多かった09年の「障害者郵便制度悪用事件」で無罪となった厚労省村木厚子さんには、世論が彼女に味方して、検察による調書のでっち上げが次々に法廷で暴かれていきました。
最高裁の判事として角栄の判決に参加した園部逸夫さんは、角栄が生きているうちに判決を出せなかったことを残念がっていた。角栄が生きていたら、再審でもなんでもやって身の潔白を主張し続けたでしょうから。園部さんも「裁判所が、世論の影響を全く受けなかったと言えば、ウソになります」と話していました。
園部さんは、法律家として良心的な方でした。ロッキード事件は、アメリカの上院外交委員会多国籍企業小委員会(通称・チャーチ委員会)でロッキード社のアーチボルト・コーチャン副会長が、日本の政府高官に多額の賄賂を渡したと証言したことで発覚しました。これを端緒に角栄は逮捕されたのですが、検察が米連邦検察官に嘱託して聴取したコーチャン嘱託尋問は、日本の刑法に照らせば、違法に収拾された証拠、つまり違法性が高かった。だから、最高裁はコーチャンの嘱託尋問の調書を証拠採用しませんでした。ギリギリのところで誤った判例を残すことを防いだのです。

 


・事件を動かしたトリックスターたち

 

大西 『ロッキード』では、多くのキャラクターが登場しますが、印象深いのは「5億円受領」を検察に自白させられる榎本敏夫です。側近中の側近でヤバい金を扱う存在だった榎本が検察側の取り調べにあっさりと落ちてしまう。その後、否認に転じる榎本ですが、その元妻の榎本三恵子が検察側の証人として法廷に立って「5億円の受領」を証言してしまう。この「ハチの一刺し」も強烈でした。角栄にしたら、身内からなんでこんなバカな証言がでるんだと思ったでしょう。
リクルート事件でもいったん収束したかと思ったときに、江副の側近の松原弘がやらかしてしまう。ロッキード事件の国会追及でも名を馳せ、リクルート事件でも追及の厳しい「国会の爆弾男」の楢崎弥之助に口封じのための現金を渡す現場を日テレに隠し撮りされ放送されてしまう。
彼らのようなある種のトリックスターがかき回して、事件が大きく動き出した。

 

真山 榎本敏夫に重要な役目を負わせていたことを見ても角栄は人をうまく使えていなかったということでしょう。もし小説なら、鉄壁の布陣の組織トップを裏切る人物を描くとしたら、もっとずるくて、頭が良くて、読者の納得のいく動機が必要です。ところが、現実の世界では、なぜこんな人がと思う人物が事件を動かしてしまう。

 


・二つの疑獄の「因縁」

 

真山 ロッキード事件に大きな影響を及ぼしたとされるキッシンジャーも、角栄を嫌っていた節があります。角栄は気がついていなかったようですが、キッシンジャーは、角栄を秘密の守れない男だと嫌悪して、一方でエリートの中曽根を重要視していた。
「空飛ぶコンピュータ」と呼ばれた高額の対潜哨戒機P-3C導入をめぐる「児玉ルート」の線上に名前が浮上し、ロッキード事件の後のダグラス・グラマン事件でも中曽根の名前が挙がっていますから、検察は中曽根にも強い興味を持っていた。その中曽根追及の執念はリクルート事件に引き継がれている。

 

大西 たしかにそのとおりです。通信業界に影響力を持っていた田中派は、NTT民営化後の社長に守旧派の北原安定を推していた。かたや時の総理の中曽根は電電改革に大ナタを振るった電電公社最後の総裁、真藤恒を据えようとしていた。
当時の巨大利権が絡んだNTT民営化論争は、田中派と中曽根派の代理戦争の場だったのです。ところが角栄脳梗塞で倒れたことで拮抗が崩れ、結果、真藤がNTTの初代社長になりました。しかし、真藤は江副が渡した未公開株で逮捕されてしまう。
リクルートの江副逮捕がNTT利権、中曽根派に検察が切り込む端緒であったとすれば、まさに角栄が倒れなければ、この事件はなかったかもしれません。
しかし、私から見れば真藤の逮捕で、日本が失ったモノは大きかった。彼はアメリカが電話・通信事業を独占していたAT&Tを9社に分割し解体、その結果、通信コストが劇的に下がったことで、数々の新興企業が生まれネット勃興の時代の下地となったように、NTTの分割民営化を推進した人。もし真藤が失脚しなければ、もっと徹底した民営化が行われて、いまの日本のIT産業も少しは変わっていたかもしれません。
日本経済新聞の社長で「オンライン化」と「グローバル化」を80年代に構想した森田康も未公開株で社長を辞任した。ちょうど私が入社した88年のことでした。

 


角栄と江副「天才たるゆえん」

 

真山 角栄も江副も、中曽根よりもナイーブな人柄だった。だからこそ、ハーバード卒の謀略が大好きなキッシンジャーが丁々発止で活躍する国際政治や、成り上がりを叩く大衆のバッシングに巻き込まれてしまったのかもしれません。
私は田中角栄は打算のない、純粋に人のために働く政治家だったと思います。
彼の特長は法律の作り方が抜群にうまかったこと。小学校しか出ていない角栄にとって、政治家の仕事とは教科書に書いてあるとおり、立法府の国会で法律を作ることでした。角栄の秘書官を務めた元通産省事務次官の小長啓一は、角栄の予算を作る力をリスペクトしていました。高速道路を作るために、重量税やガソリン税を作った。
国会議員の仕事は法律と予算を作ること。それを優れた才能でやり続けた総理は、田中角栄だけでしょう。

 

大西 江副も経営というものをピーター・ドラッカーに学んで、その教えのとおりに生きました。リクルート疑獄から26年後、リクルートは上場を果たしましたが、創業者を失っても成長を続けた会社は世界を見渡しても、そうはありません。江副は科学的な経営をして方法論を具体的に会社のシステムに落とし込んだからこそ、後進は、彼が設計した通りに生き生きと働くことができた。社員たちに主体性があって多くのビジネスマンが独立し、会社を大きくしました。
しかし、リクルートはあの疑獄があってよかったのかもしれません。リクルートコスモスは、江副が逮捕されるまで、地価が高騰する中で、狂ったように土地を買い続けていた。バブルがはじけて1兆8000億円の借金を出したけど、事件で江副が失脚していなかったら3兆円、4兆円と借金が膨らんでリクルートはこの世になくなっていたかもしれません。これは多くのリクルートOBたちの意見です。
一方で、コンピューティングパワーにいち早く目を付けた江副が指揮を執り続けていたならば、情報産業がいまどうなっていたかは見てみたかった。もちろん当時のテクノロジーはまだまだ脆弱で、うまくいったかどうかはわかりません。しかし、江副が倒れても、必ずや第2、第3の江副が登場し、巨大なIT産業が生まれたのではないでしょうか。

 

真山 私は角栄も江副も、破滅は必然だったと思います。歴史的に見たら、二人はたとえば幕末の吉田松陰なのではないでしょうか。吉田や高杉晋作坂本龍馬の屍を乗り越えていった多くの志士たちが、明治維新を成功させました。
GAFAも同じで、彼らが登場する前にも優秀な人間はたくさんいた。目立っている成功者だけがすごかったわけじゃない。角栄や江副は、疑獄がなかったとしても、きっとどこかで躓いたでしょう。しかし二人の教訓を生かして偉大な政治家やプラットフォーマーが生まれなかった日本は、まだまだ未成熟なんだろうと思います。

 


・若者の危機感が本物になってきた

 

大西 リクルート事件のころは世界の時価総額ランキングのベスト10のうち、7社が日本企業だったのに、いまはトップ50以内に入っているのは49位のトヨタ自動車のみ。経済のみならず、ガタガタの菅政権で政治も迷走して展望の見えにくい日本ですが、チャンスはまだ残っています。GAFAが登場し、ITの分野で日本はすってんてんに負けました。ところが、いまネットがリアルの世界に染み出して、ネットとリアルを融合させたビジネスモデルが次々と生まれている。その時にリアルに強い日本の技術に需要が次々と生まれそうです。例えば鮮度を保つ運搬技術とかね。
また、日本は無為のままこの30年を過ごしてきたように見えますが、ちょこちょこと稼いできた人たちがベンチャーキャピタルを形成し、日本にもエンジェル投資家とよばれる人が出てきています。日本では徒手空拳の起業家はこれまで銀行から借りるしかなかったけど、借金でなく投資されたカネで新しい産業が生まれる芽が出てきたのです。
江副浩正の生涯を描いた『起業の天才!』には、冒頭にエンジェル投資家として活躍し19年に47歳の若さで亡くなった瀧本哲史さんのインタビューを収録しています。彼は「江副さんがダークサイドに落ちてしまったのは、彼を乗りこなす騎手、つまりまともなエンジェル投資家が日本にいなかったから」と語っています。江副のような暴れ馬のイノベーターが活躍する土壌が着実に育っています。

 

真山 私は若者たちの危機感がようやく本物になってきたと感じています。大学生を集めた真山ゼミを10年近くやっていますが、数年前から東大生でも意識が変わってきました。5年ほど前は日本の危機を語っても、理解はするけど「まあなんとかなるでしょ」という感じだった若者が、いまは挫折をいとわずチャレンジすることを怖がらなくなっています。彼らはようやく「日本はこのままではダメだ」と、この国の危機を真剣に受け止めて行動を起こし始めています。
ロッキードリクルート、二つの疑獄という昭和の教訓は、いま、ようやく生かされる時代になったのかもしれません。


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なぜ日本は壊れていったのか…「ロッキードリクルート事件」の真相
現代ビジネス(講談社)2021.03.23
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