■デジタルをめぐる覇権争いを日本人は知らない
東洋経済オンライン(東洋経済社)2020/10/19(塩野誠)
https://toyokeizai.net/articles/-/381239
~~~
・「デジタル」を理解するのに必要な視点
デジタルテクノロジーの覇者は、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)と呼ばれる巨大テック企業かもしれず、話題のTikTokかもしれない。
そんな折、新しい首相を迎えた日本では政府が「デジタル庁」を発足するという報道があった。
新型コロナウイルスのパンデミックを受けて、日本では感染者追跡アプリ開発や教育現場での遠隔学習などにより、先進国であるはずの日本のデジタル化の遅れが大きく浮き彫りになった。
「デジタル」については国家間の争いから、子どもの教育、スマートフォンでの暇潰しまで、あらゆる角度でニュースとなっている。ビジネスパーソンにとって日々、五月雨式に入ってくる情報だけでは、何が自分のビジネスに関係する事象なのかさえ理解が難しくなっていることも事実である。
現在、世界では日本企業の存在感が薄くなっている。
海外MBAの授業で日本企業がケースとして取り上げられることもほとんどなくなってしまった。
この現状は、テクノロジーは自分たちには関係ない、政治は自分たちには関係ないと考えた企業トップの知的怠慢がその原因ではないかと筆者は考えている。
職場ではDX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれるが、AIや5Gネットワークなど、技術的な話題が入ってくるとより難しく感じるのではないだろうか。
ここではビジネスパーソンが「デジタル」のニュースをどのように見るべきか、ビジネスパーソンが持つべき視点を解説する。
登場するのは、各国政府、デジタルプラットフォーマー企業、機関投資家、企業、個人である。
それではまずは国家間という大きな話から始めよう。
国家は主権、領土、国民で構成される。
そして国家のパワーは軍事力、経済力、情報、領土の位置や大きさなどの要素によって規定される。
そこにデジタルテクノロジーが新たなパワーとして加わったのが現代である。
米中テクノロジー摩擦に代表されるように、デジタルテクノロジーによる覇権をめぐって各国政府が争っている。
なぜならデジタルテクノロジーはサイバー攻撃など軍事と安全保障に直結するものから、自動車や半導体といった国家経済を左右する巨大産業までに関係するパワーとなっているからである。
ここで登場するのが、各国政府が独占していたパワーに挑戦する、デジタルプラットフォーマー企業である。
例えば国家が独占していたはずの通貨の発行をもくろんだフェイスブックがそうだ。
・国家による独占に挑戦したフェイスブック
フェイスブックはリブラ協会をスイスに設立し、デジタル通貨である「リブラ」を発行しようとした。
政府が独占していた通貨発行に手を伸ばしたフェイスブックは、各国政府から猛反発を受けることとなった。
もしもリブラが発行されれば、フェイスブックのユーザー(個人)がそのデジタル通貨を使うことで、一気に20億人を超える人々が使う通貨が登場したかもしれない。
デジタルテクノロジーのパワーによって政府に挑戦するデジタルプラットフォーマー企業を各国政府は規制をもって迎え撃つ。
デジタルプラットフォーマーは当然に各国の法律に従う必要がある。
各国政府以外に巨大化したデジタルプラットフォーマーに影響を与えられるとすれば機関投資家が挙げられるだろう。
デジタルプラットフォーマーは資本市場における時価総額を経営に利用している。
機関投資家は株主として、ESG、つまり環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に対して善をなすべきという観点から牽制することが可能である。
一方で各国政府は自国の企業がグローバルにデジタルテクノロジーを用いてビジネスをする際はそれらを援護する。
アメリカのシリコンバレーの企業がEU委員会の規制によっていじめられたとアメリカ政府が思えば反撃するだろう。
このとばっちりを受けて一般の企業が経済制裁や規制に悩まされることになる。
外国投資規制でM&Aが中止となり、ファーウェイ問題のように特定企業の製品が使えなくなればサプライチェーンの組み換えが必要となる。
巨大化したデジタルプラットフォーマー企業はまるで政府や公的な存在のように振る舞っている。
きっと政府より個人の趣味嗜好について詳しいことだろう。
個人はせっせと自分の関心事を検索エンジンに教えている。
個人のコミュニケーションツールもみんなデジタルプラットフォーマーが提供している。
急にグーグルやLINEが使えなくなって困るのは個人である。
こうして、国家間の話題は、企業、個人のレベルへと影響していくことになる。
国家対デジタルプラットフォーマーの攻防について、個人は自分には関係のないものとは言えないのである。
デジタルプラットフォーマーに言うことを聞かせられるのは法規制を使える政府である。
加えて、デジタルプラットフォーマーが上場企業であれば、少しは株主である機関投資家の言うことも聞くだろう。
もしもデジタルプラットフォーマーがフェイクニュースを垂れ流しにするような事態になれば、誰かが注意しなければならない。
・利便性と濫用リスクというジレンマ
例えば国中に監視カメラを配置して、顔認証で人々の行動を管理する際に、テクノロジーは設計されたとおりに動き、その管理者に忠実である。
管理者が民主主義的に選ばれたリーダーでも権威主義的な独裁者でも、テクノロジーはリーダーに忠実に仕事を行う。
例えばコロナウイルスの感染者追跡アプリもテクノロジーによって、感染予防が行われて人の命を救うこともあれば、同じテクノロジーを使って人々をデジタルの檻に閉じ込めることも可能である。
そうしたことが行われないように、個人は利便性を感じつつも政府がテクノロジーを濫用することに注意しなければならない。
国民はテクノロジーの上位に国民主権や法の支配といった普段は忘れているような原理が置かれていることを確認しなければならない。
例えば日本で「デジタル庁」が進めていくであろう行政手続きのオンライン化でも、行政と個人が対等に透明性をもって、「(監視されているような)気持ち悪くない」仕組みをつくる必要がある。
~~~
デジタルをめぐる覇権争いを日本人は知らない
東洋経済オンライン(東洋経済社)2020/10/19(塩野誠)
https://toyokeizai.net/articles/-/381239
■グーグルが検索シェア9割死守に年1兆円
東京新聞(2020年10月21日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/63337
~~~
米司法省と11州が20日、反トラスト法(独占禁止法)違反で米グーグルをワシントン連邦地裁に提訴した。
グーグルはネット検索で9割近いシェアを握る独占的な地位を守るため、アップルに年1兆円を払う契約を結び、ライバルを不当に締め出したことも明らかにした。
米IT大手に対する独禁法訴訟ではマイクロソフト以来、約20年ぶりの大型案件となる。
訴訟の行方次第では事業分割を迫られたり、日本など海外のユーザーにも影響するとの見方もある。(ワシントン・白石亘)
訴状によると、グーグル社内では、アップル製品で検索エンジンの標準設定の座を守るのは生命線だった、と指摘。
昨年、グーグルの全検索件数のうちほぼ半分は、アップル製品から流入したという。
検索ビジネスにとって、ユーザーの規模拡大は、検索の質を高め、広告を増やす好循環につながる。
・グーグル検索を標準設定
グーグルはアップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」などに使われるネット閲覧ソフト「サファリ」でグーグル検索を標準設定にしてもらうため、広告の利益を分配した。
支払額は年80億ドル~120億ドル(約8400億円~約1兆3000億円)で、アップルの年間利益の15~20%を占めると推定。
アップル幹部はグーグル幹部に「われわれのビジョンは両社が一つの企業のように協力することだ」と伝えた。
検索ユーザーを囲い込む巨大IT企業の「密約」を問題視する司法省は「標準の検索エンジンを変更する人はほとんどいない。それがグーグルが大金を払う理由だ」と指摘。
一方、ライバルの検索エンジンには、この排他的な契約が参入障壁となり、ユーザー数を獲得できず、消費者は選択肢が減り、広告料金に競争原理が働かないと批判した。
~~~
■グーグルが検索シェア9割死守に年1兆円
東京新聞(2020年10月21日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/63337