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日銀金融緩和で刷られた円の行き先が日本企業でも日本国民でもないカラクリ(Dr.苫米地 2016年9月15日TOKYO MXバラいろダンディ) https://www.youtube.com/watch?v=tvzNqO6qsGI

■中曽根政権の5年間で日本経済は失われた Newsweek(ニューズウィーク)冷泉彰彦(2019年12月03日)

 

■中曽根政権の5年間で日本経済は失われた

Newsweekニューズウィーク冷泉彰彦(2019年12月03日)

https://www.newsweekjapan.jp/reizei/2019/12/5-2.php


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中曽根政権の5年間は、日本が「モノづくりから脱製造業、ポスト製造業へ」「ナショナルからグローバルへ」と産業構造を転換すべきタイミングでありながら、その転換に失敗した「失われた5年間」だったと見ています。


象徴的な事例を2つ挙げたいと思います。

1つは、1982年に起きたIBMスパイ事件です。


当時の日本のコンピューター産業は、半導体の設計製造技術などハードウエアの面では、かなりの競争力を誇っていました。

ただ、ソフトに関しては、アメリカに追いつくことができず、日立や東芝なども「IBM互換機」を戦略の中心に据えていました。


ちなみに、これは個人用の後のパソコンではなく、法人用のメインフレームに関する話です。

つまり米IBMの作るOSが走るように、またIBMで走るプログラムが動くように設計しつつ、IBMよりも廉価で高性能なマシンを販売する、これが日本勢の戦略でした。


そこで、米IBMは日本勢に互換機が作れないように、今で言うOS機能をファームウエアに取り込むようなことをして、互換機が作れないようにしたのです。

日本勢は、当然これに対抗して情報収集をしていたのですが、その活動がFBIによるタチの悪い「おとり捜査」に引っかかって被害に遭ったという事件です。


この事件がどうして象徴的なのかというと、この後、日本勢はメインフレームに関する独自OSの開発に向かえば良かったのですが、アメリカに汚い手を使われても互換機にこだわったばかりか、ソフト軽視の風潮をつづけたのでした。


またこの時期は、個人のホビー用コンピューターとしてのパソコンの黎明期で、MSXとか、日電の6000、後に8000など成功していたマシンもあるのですが、結局は大戦略として「ソフトしかやらない」というビル・ゲイツ、「独自OSと独自マシンにこだわる」というスティーブ・ジョブズ、そして日本から順次CPUのノウハウを奪っていったインテルが覇権を拡大していくことになるのです。


つまりアメリカと競争して試行錯誤しつつ順調に進化していた日本のITが、総合的に負け始めていく端緒が、このスパイ事件であり、そして中曽根政権の5年間にジワジワと方向性の誤り、時間の空費が進行し、90年代の大敗北に繋がっていくのだと思います。


もう1つは、1985年のプラザ合意です。

先進5カ国の蔵相会議がニューヨーク五番街の「プラザホテル」で行われ、各国が協調する形で、ドル安誘導がなされた結果、急速な円高が進んだ事件です。


日本の経済史的には、輸出に不利な円高を強制されたとか、円高不況対策がバブルを招いたと言われることが多いのですが、違うと思います。

円高は、当時の日本経済の短期的な実力からすれば不可避でした。


また、バブル崩壊と90年代以降の低迷は、バブル膨張に原因があるのではなく、深層において日本が競争力を喪失していった「結果」と見るのが正当です。

その上で、このプラザ合意を振り返ってみると、まず折角の円高を日本経済は活用することに失敗しました。


先進国の企業を買収しても、当時の欧米世論に嫌われてヤル気が無くなったり、買った会社の精査や徹底した経営改革ができずに損をしたり、惨めな結果も多くありました。

また、円高パワーを使って、中長期を目指した投資を行うことも足りませんでした。


もっと言えば、円高は日本経済が世界へ打って出て、自らも国際化する貴重なチャンスであったはずですが、それを生かすことはできませんでした。

スパイ事件から迷走するITの戦略を立て直すのでもなく、NTTなどの民営化で売り出した金で、情報通信産業の先端へと躍り出るための投資が十分にされるわけでもなく、貴重なチャンスを空費していったのです。


この2つの事件を考えてみるだけで、この80年代中期に日本経済がいかに迷走していたかが良くわかります。

生前の中曽根康弘氏は、哲学とか大局観ということを良く口にしていました。


ですが、この1982~87年の日本経済において、哲学や大局観が少しでもあったなら、その後のひどい経済の低迷というのは起きなかったか、少なくとももう少し衰退をスローダウンすることはできたのではないかと考えます。


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【中曽根政権の5年間で日本経済は失われた】
Newsweekニューズウィーク冷泉彰彦(2019年12月03日)
https://www.newsweekjapan.jp/reizei/2019/12/5-2.php